自宅のテーブルに置いたノートには、「1,298万円」と書かれています。
「まずは不足額を計算してから優先順位を決めます」
前回の記事で確認した、58歳会社員(私)の老後資金の不足額です。定年までの期間で割り、毎月必要な積立額を出してみると、現実の家計からは出せない金額になりました。
大学生の子どもの教育費はまだ残っています。住宅ローンの返済は定年後まで続く予定です。日々の生活費も必要です。必要額が分かっても、そのお金をどこから出せばよいのかまでは分かりません。
ここで、50代まで準備できなかった自分を責める必要はありません。必要額を知ることと、その全額を現在の家計から用意することは別です。今の生活を崩して老後資金を積み立てても、急な出費のたびに取り崩す状態になってしまいます。
先に決めるのは、現在の積立額だけではありません。教育費などが終わったあと、何年何月からいくら増やすかまでセットで決めます。
この記事では、家計を守る5つの優先順位と、現在・支出終了後に分ける「二段階積立」を整理します。読み終わったら、教育費、住宅ローン、現在の給与が変わる年月の3つを確認できる状態を目指します。
老後資金の不足額が分かっても、貯めるお金が残らなかった
不足額1,298万円を定年までの短い期間だけで埋めようとすると、毎月の積立額は大きくなります。しかし、教育費、住宅ローン、生活費を払ったあとに、その金額が残るとは限りません。
だからといって、不足額を調べたことが無駄になったわけではありません。1,298万円は、現在地と将来の課題を知るための数字です。現在の給料だけで全額を用意する命令ではありません。
この記事では不足額の計算を繰り返さず、分かった不足額に対して家計をどう動かすかに進みます。
老後資金の不足額をまだ確認していない場合は、先に自分の現在地を見える化しておくと、このあとの優先順位を決めやすくなります。
結論|今の積立額より「いつ増やせるか」を先に決める
老後資金を貯められないときは、老後だけを最優先にしません。毎月の赤字を止め、急な出費に使う現金と、数年以内に支払う教育費を先に分けます。そのあとに、現在無理なく続けられる金額を老後資金として確保します。
ただし、少額を始めて終わりにはしません。教育費や大きな固定費が終わる年月を確認し、その翌月から積立額を見直す予定まで決めます。
これが、この記事で使う「二段階積立」です。
- 第1段階:支出が重なる現在は、家計を赤字にしない金額を分ける
- 第2段階:教育費などが終わったら、空いた金額の配分を見直して老後積立を増やす
現在額と増額時期を一つの計画にすれば、「月1万円では意味がない」と止まるのではなく、家計が変わる時期を利用できます。
50代で老後資金を貯められないのは、支出の終了時期が定年に近いから
50代で貯金できない理由を、意志の弱さだけで片づけることはできません。教育費や住宅ローンの終了時期と、定年による収入変化が近接している家計があります。
教育費の負担が50代まで続いている
大学の学費や仕送りは、支払う時期が決まっています。老後が気になっても、目前の納付期限を自由に先延ばしすることはできません。
子どもの進路を狭めたくないと考えるのも自然です。教育費と老後資金のどちらか一方だけを選ぶのではなく、まず教育費が終わる年月を確認します。そのうえで、終了までの老後積立と、終了後の増額を分けて考えます。
住宅ローンが定年後まで残る
現在の給料で返済できていても、再雇用後に収入が変われば、同じ返済額の負担感は変わります。確認したいのは今月の返済額だけではなく、完済予定年齢と定年時点の残高です。
退職金で全額返済する前提にすると、老後の生活や住宅修繕に使える現金が減る場合があります。ここでは繰上げ返済や借り換えの良し悪しを決めず、定年後の家計でも返済できるかを先に確認します。
不足額が大きく、少額では意味がないと感じる
1,298万円と月1万円を並べれば、月1万円では足りないと感じます。実際、月1万円だけで不足額の全てを補えるわけではありません。
一方、現在から定年まで同じ金額を積み立て続ける必要もありません。教育費が終わるなら、その後は家計の配分を変えられます。比較するべきなのは不足額と現在の積立額だけではなく、支出終了後を含めた積立計画です。
老後資金を貯められないときの5つの優先順位

老後資金を分ける前に、家計を途中で崩さない順番を確認します。
1.毎月の赤字を止める
赤字のまま積立を始めると、生活費が足りない月に積立口座から戻すことになります。まず銀行口座とクレジットカードの直近3か月分を見て、毎月の収入で通常支出を払えているか確認します。
ここで固定費の節約を全て試す必要はありません。先に把握するのは、赤字額と、通常月にいくらなら残せるかです。
毎月お金が残らない原因が分からない場合は、老後資金を捻出する前に、家計からお金が出ていく場所を確認します。


2.急な出費に使える現金を残す
病気、家電の故障、車検、冠婚葬祭など、予定どおりにいかない支出があります。そのための現金は、何十年も先に使う老後資金とは役割が違います。
必要額は、雇用形態、配偶者の収入、加入している社会保障、車や持ち家の有無などで変わります。一律の金額や月数を正解にはできません。自分の家計で起こりやすい急な支出と、収入が止まったときに使える制度を確認して決めます。
急な出費に使える現金がなければ、老後積立を途中で崩す可能性が高まります。積立を続けるためにも、現金を先に分けます。


3.数年以内に支払う教育費を取り分ける
教育費は総額だけでなく、最後の支払いが何年何月かを書きます。数年以内に使う学費は、価格が変動する金融商品へ回さず、支払いに使える形で分けます。
教育費を確保することと、老後積立を完全に止めることは同じではありません。現在の余力に応じて老後資金を分け、教育費が終わる翌月から増やす計画を組めます。
4.住宅ローンの完済年齢と定年後の返済額を確認する
住宅ローンについては、次の項目を返済予定表などで確認します。
- 住宅ローン残高
- 金利
- 毎月の返済額
- 完済予定年齢
- 定年時点の残高
- 再雇用後の収入でも返済できるか
繰上げ返済で手元現金を減らす前に、返済後の生活費、急な出費、住宅修繕費が残るかも見ます。繰上げ返済や借り換えは条件によって結果が異なるため、この記事では結論を一律に決めません。
5.残った範囲で老後資金を分ける
1から4までを確認し、残った範囲で現在の積立額を決めます。最初から不足額を埋める理想額に合わせるのではなく、通常月に続けられる金額にします。
給料日に生活口座とは別の場所へ移せば、老後資金を日常支出と区別できます。このとき、積立額の横に「何年何月に見直す」と記録します。
ボーナスだけを積立原資にすると、支給額の変化や年間支出で計画が崩れます。ボーナスを使う場合も、毎月の積立とは分けて考えます。
ボーナスを老後資金に回したい場合も、入金後に考えるのではなく、税金や車検などの年間支出を先に取り分けます。
58歳会社員が「支払いの終了時期」を書き出してみた
58歳会社員のモデルでは、不足額1,298万円以外の実数が提示されていません。そこで、事実のない家計簿を作らず、本人が返済予定表や学費資料から埋める記入シートにします。
| 支出・収入の変化 | 終了・変更時期 | 毎月変わる金額 | 終了後の振り分け先 |
|---|---|---|---|
| 教育費 | __年__月 | __万円 | 老後資金・住宅ローン |
| 住宅ローン | __年__月 | __万円 | 老後生活費 |
| 現在の給与 | __年__月 | 収入減を確認 | 再雇用後の家計を再計算 |
必要に応じて、保険料など大きな固定費の終了年月も追加します。確認する順番は、終了年月、毎月変わる金額、その後の振り分け先です。
教育費が月4万円だったとしても、終了後の4万円が自動的に残るとは限りません。これは記入例であり、実際の金額ではありません。住宅修繕や収入減が同時期にあれば、空く金額から差し引く必要があります。
今は少額、教育費終了後に増やす二段階積立

支払いの終了時期が分かったら、現在と終了後を分けて積立額を決めます。
現在は家計を赤字にしない金額にする
月1万円を10年間積み立てた場合、元本は120万円です。これは手数料や運用益を含めない単純な計算例であり、月1万円が一般的な正解という意味ではありません。1,298万円の不足を月1万円だけで解消するものでもありません。
第1段階の目的は、家計を赤字にせず、老後資金を生活費と分ける経路を作ることです。月5,000円、月1万円などの金額から選ぶのではなく、自分の通常月に残せる金額から決めます。
教育費が終わったら積立額を増やす
第2段階では、教育費が終わる前に、その翌月からの配分を決めます。たとえば「教育費終了の翌月に家計を再確認し、老後資金、住宅ローン、住宅修繕費へ振り分ける」と記録します。
空いた金額の全てを老後資金へ回すとは限りません。大切なのは、余ったら増やすという曖昧な予定にせず、見直す年月と候補額を先に書くことです。
退職時に不足額をもう一度計算する
退職時には、記事025の不足額を次の最新情報で更新します。
- 退職金の手取り確定額
- その時点の住宅ローン残高
- 再雇用後の収入
- 最新の年金見込額
- 見直した老後の生活費
退職金の見込額は、手取りが確定するまで確定額として扱いません。年金見込額も加入状況や制度改正などで変わるため、最新情報で確認します。日本年金機構の「ねんきんネット」では、条件を設定して将来の年金見込額を試算できます。
貯める余裕がないときは、投資を急がない
新NISAを始めなければ損をする、と焦る必要はありません。家計が赤字の状態や、数年以内に使う教育費まで投資へ回す状態では、必要なときに売却することになりかねません。
投資信託は預金と異なり、元本が保証されていません。価格変動などによって損失が生じる可能性があります。家計の赤字を投資収益で埋める計画にはしません。
iDeCoは老後の資産形成を目的とする制度で、原則として中途解約して自由に引き出すことはできません。老齢給付金を受け取れる年齢は、これまでの確定拠出年金の通算加入者等期間によって異なります。50代後半から検討する場合は、「60歳まで」と一律に考えず、自分が何歳から受け取れるのかを確認する必要があります。
この記事では制度や商品を選びません。先に収支、急な出費用の現金、近く使う教育費を整理し、その後に使える余裕資金があるかを確認します。
FAQ 老後資金を貯められない50代の よくある質問
- Q月1万円しか積み立てられなくても意味はありますか?
- A
月1万円だけで不足額を補えるわけではありません。ただし、老後資金を生活費と分け、教育費終了後などの増額時期まで決めるなら、二段階積立の第1段階になります。
- Q教育費と老後資金はどちらを優先しますか?
- A
支払いが近い教育費を先に取り分けます。老後積立を完全に止めるかは、赤字の有無と現金の余力によって変わります。教育費の終了年月と、その後の増額計画をセットで決めます。
- Q住宅ローンは退職金で返してもよいですか?
- A
退職金の手取り確定額、ローン残高、金利、返済後に残る現金を確認して判断します。老後生活費や住宅修繕費まで失う全額返済を一律には勧めません。
- Q余裕がなくても新NISAやiDeCoを始めるべきですか?
- A
家計が赤字なら、先に収支を整えます。近く使うお金を投資へ回さず、制度の利用を急ぐ必要はありません。iDeCoは原則として中途解約して自由に引き出せず、受給可能年齢も通算加入者等期間によって異なります。50代後半から検討する場合は、何歳から受け取れるかまで確認します。
最初に「支払いが終わる年月」を3つ書き出す
一度に家計全体を作り直す必要はありません。最初に、次の3つを資料で確認します。
- 教育費が終わる年月と、毎月変わる金額
- 住宅ローンが終わる年月と、毎月変わる金額
- 現在の給与が変わる年月と、想定される収入変化
金額が確認できなければ、まず年月だけでも構いません。金融商品を選ぶ前に、家計が変わる時期を確認します。
まとめ|今の積立額と、将来増やす時期をセットで決める
老後資金を貯められないときは、次の順番で家計を確認します。
- 毎月の赤字を止める
- 急な出費に使える現金を残す
- 数年以内に支払う教育費を取り分ける
- 住宅ローンの完済年齢と定年後の返済額を確認する
- 残った範囲で老後資金を分ける
少額積立だけで老後資金の問題が解決するわけではありません。現在続けられる積立額と、教育費などが終わった後に見直す年月をセットで決めることが大切です。
まず、教育費、住宅ローン、現在の給与が変わる年月を確認してください。二段階目を始められる時期が分かれば、現在の家計に合う一歩を決められます。



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