土曜日の午前、ディーラーの待合スペースで、僕は紙コップのコーヒーを持ったまま固まっていました。
差し出された車検の見積書。合計欄には、13万円台の数字が印字されていました。
「今回はブレーキ周りの部品交換もありまして」
担当の方の説明は丁寧でしたし、内容に不満があったわけでもありません。それでも僕は「あ、はい。お願いします」と平静を装いながら、頭の中では別のことを考えていました。
——前回の車検って、いくらだったっけ。というか、この車、年間いくらかかってるんだ?
答えは出ませんでした。50代にもなって、10年近く乗っている自分の車の費用を、僕は何も知らなかったのです。
この記事は、その夜から始まった「車関連費の棚卸し」の記録です。保険料【記事012】、スマホ代【記事013】と続けてきた固定費の見直しシリーズも、いよいよ大物にたどり着きました。
先に書いておくと、この記事は「車を手放しましょう」とも「保険を乗り換えましょう」とも言いません。僕がやったのは、1年分の車関連費をかき集めて、一枚の紙に書き出しただけ。それでも、家計の景色は思った以上に変わりました。
妻の一言「うちの車って、年間いくらかかってるの?」に答えられなかった

その夜、僕は車検の見積書を食卓に置きました。
「今回、13万くらいかかるって」
妻は見積書を手に取って、眉をひそめるでもなく、ただ一言こう言いました。
「ふうん。……うちの車って、結局、年間いくらかかってるの?」
僕は答えようとして、口を開けたまま止まりました。
車検代は、今わかった。じゃあ保険は? たしか年に一度、何かの引き落としがあった気がする。税金は? 春に納付書が来て、コンビニで払った記憶はある。ガソリンは? 週末のたびに入れているけれど、月にいくらかは考えたこともない。
住宅ローンなら月々の額を即答できます。スマホ代も、前回の見直しで把握しました。電気代だって、だいたいの月平均は言えます。
なのに、車だけ答えられない。
毎年ちゃんと払っているはずなのに、合計を家族の誰も知らない。この違和感が、妙に引っかかりました。金額が高いか安いかの前に、そもそも見えていない。これは金額の問題ではなく、見え方の問題なんじゃないか——その夜、僕はそんな仮説を立てました。
車関連費が見えない本当の理由は「バラバラ払い」だった
5月に税金、年に一度の任意保険、2年に一度の車検
翌日、僕は思いつく限りの「車にまつわる支払い」を、時系列に並べてみました。
- 5月ごろ:自動車税の納付書が届く
- 夏ごろ:任意保険の更新案内が届き、年払いで引き落とし
- 2年に一度:車検(自賠責保険と法定費用もここに含まれる)
- 毎月:ガソリン代(ただし金額はバラバラ)
- 不定期:タイヤ交換、オイル交換、洗車、たまの高速代
並べてみて、気づきました。車の費用は、1年のあちこちに散らばって請求されるのです。
スマホ代は毎月同じ日に、ほぼ同じ額が引き落とされます。だから家計簿の上で「顔」が見える。前回の見直しのときも、明細さえ開けば正体はすぐに掴めました。
ところが車は違いました。4月の税金と、夏の保険と、再来年の車検を、頭の中で足し算している人はまずいません。少なくとも僕はしていませんでした。
「時期分散型」の固定費は、家計簿の上で姿を消す
うちの家計簿アプリを見返してみると、車関連で毎月記録されているのはガソリン代だけでした。
税金は「税金」のカテゴリに、保険は「保険」のカテゴリに、車検は「その他の大きな出費」として、それぞれ別の場所に散っていました。つまり、家計簿の上では「車」という項目がどこにも存在しなかったのです。
「車 家計 負担」と検索する人は多いそうです。負担の実感は、たしかにある。車検のたびに、税金のたびに、うっと来る。でも正体が掴めないのは、こうやって支払いが分散して、家計簿の中で姿を消しているからでした。
謎はひとつ解けました。次にやることは、決まっています。散らばったものを、一か所に集めることです。
1年分の車関連費をかき集めた夜——用意したのは紙一枚だった

僕が書き出した7つの項目
日曜の夜、僕が用意したのはコピー用紙一枚とボールペン、それに書類の入った引き出しとクレジットカードの明細だけでした。
書き出した項目は、次の7つです。
- 自動車税……春に届いた納税通知書の控えを確認
- 自賠責保険……車検の見積書・前回の明細の中に記載あり
- 車検・法定点検……今回の見積書と、前回の領収書。2年に一度なので、あとで2で割る
- 任意保険……保険証券と更新案内。年払いの金額をそのまま
- ガソリン代……クレジットカードの明細から直近3か月分を拾って月平均を出し、12倍
- 駐車場代……僕は自宅駐車なので0円。借りている方は月額×12
- その他……タイヤ・オイル・洗車・高速代など、思い出せる範囲でざっくり
コツがあるとすれば、ひとつだけ。正確さより「すぐ出せる数字」を優先することです。
ガソリン代を1年分きっちり集計しようとすると、そこで力尽きます。3か月の平均を12倍すれば十分。「その他」も思い出せる範囲の概算でかまいません。目的は決算書を作ることではなく、だいたいの年間総額と初めて対面することだからです。
車関連費を月換算する早見表

車関連費は、支払う時期がバラバラです。だからこそ、年間で集めて、最後に月換算すると家計の中で見えやすくなります。
| 項目 | 確認するもの | 月換算の考え方 |
|---|---|---|
| 自動車税・軽自動車税 | 納税通知書、支払い履歴 | 年額を12で割る |
| 自賠責保険 | 車検明細、保険証明書 | 車検代に含まれている場合は重複注意 |
| 車検・法定点検 | 見積書、領収書 | 2年分なら24で割る |
| 任意保険 | 保険証券、更新案内 | 年払いなら12で割る |
| ガソリン代 | カード明細、レシート | 直近3か月平均を使う |
| 駐車場代 | 契約書、引き落とし履歴 | 月額をそのまま |
| その他 | タイヤ、オイル、洗車、高速代 | 年間見込みを12で割る |
この表を作ってみると、車検代のように「ときどき大きく出ていくお金」も、家計の中に置き場所を作れるようになります。
車検代は毎月引き落とされる固定費ではありません。ただ、2年ごとにまとまって出ていくため、月割りで考えると家計への負担が見えやすくなります。
出てきた年間総額に、しばらく黙った
30分ほどで、紙の上に数字が出揃いました。車検代を2年で均して、全部を足すと——僕の場合、年間でおよそ40万円前後になりました。
しばらく、黙って紙を眺めていました。
高いのか安いのか、最初はピンと来ませんでした。あとで調べてみると、税金・保険・車検・ガソリン代などを含めた維持費は、普通車でおおむね年30〜60万円規模が一般的な目安のようです(駐車場代の有無や乗り方で大きく変わります)。僕の40万円は、特別に高いわけでも、うまくやれているわけでもない、ごく普通の数字でした。
それでも、衝撃はありました。40万円を12で割ると、月3万円台。月割りにした瞬間、車が初めてスマホ代や保険料と同じ土俵に乗ったのです。
「うちの車は、月3万円ちょっとの固定費」。この一行を手に入れたことが、その夜の一番の収穫でした。
一枚の紙が教えてくれた3つの気づき
数字が出揃うと、不思議なもので、今まで素通りしていたことが目に留まるようになりました。
気づき① 生活は変わったのに、保険の条件が昔のままだった
任意保険の保険証券を、おそらく契約以来初めて、隅々まで読みました。
そこで手が止まったのが「運転者限定」の欄です。うちは「家族限定」になっていました。子どもたちが免許を取った頃に、そう設定した記憶がうっすらあります。
でも、上の子は就職して家を出ました。下の子も、うちの車を運転する機会はほぼありません。生活は変わったのに、契約は昔のままだったのです。
僕が保険証券で確認したのは、次の3か所でした。
誤解のないように書いておくと、僕はこの場で何かを変更したわけではありません。条件を変えるかどうかは保険会社への確認も必要ですし、家族の状況にもよります。ただ、「自分の契約がどうなっているか、確認する場所がわかった」——それだけで、保険料の見直し【記事012】のときと同じ、地に足のついた感覚がありました。
気づき② 車の時価と車両保険の関係を、初めて考えた
もうひとつ、証券を眺めていて初めて考えたことがあります。車両保険と、車の時価の関係です。
うちの車は10年目。試しに中古車情報のサイトで同じ年式・同じくらいの走行距離の車を眺めてみると、新車の頃からは想像もつかない価格になっていました。
車両保険で受け取れる金額は、車の価値に応じて決まっていく。つまり、新車の頃と10年目とでは、同じ「車両保険付き」でも意味が変わっているのかもしれない——。
外すべきだとか、残すべきだとか、そういう結論を出したわけではありません。事故の形はさまざまですし、これは人によって答えが違う話です。ただ、「保険金額と時価の関係」という視点を、僕は50代にして初めて持ちました。知らずに更新し続けるのと、知った上で選ぶのとでは、同じ契約でも納得感がまるで違います。
気づき③ 月割りにして初めて、他の固定費と比べられるようになった
3つ目の気づきは、とても単純な算数の話です。
車関連費の年間総額を12で割る。たったこれだけの計算で、車は「ときどき襲ってくる大出費」から「月3万円台の固定費」に姿を変えました。
こうなると、家計の中での位置づけが見えてきます。スマホ代、保険料、光熱費、そして車。毎月の固定費が一列に並ぶ。どれが大きくて、どれが暮らしの満足に効いているのか、ようやく比べられるようになりました。
このシリーズを続けてきて、毎回同じ場所にたどり着きます。「見直し」の前に、まず「見える化」。車はその最たるもので、見える化しただけで、まだ何も変えていないのに、家計への漠然とした不安がひとつ減りました。
「車を手放すべきか」は、すぐ決めなくていい
さて、車の費用と向き合うと、必ず頭をよぎる問いがあります。
「そもそも、この年になっても車を持ち続けるべきなんだろうか」
僕も「車を手放すべきか 50代」で検索したことがあります。そして、疲れて閉じました。出てくるのは「今すぐ売却査定を」「カーリースという選択肢を」と、結論を急かす記事ばかりだったからです。
だからこの記事では、逆のことを書きます。手放すかどうかは、すぐ決めなくていい。
僕がやったのは、例の紙の余白に、判断材料だけを並べておくことでした。
並べただけで、決めませんでした。今のうちの暮らしでは車の出番がまだ多く、月3万円台という数字にも、いったんは納得したからです。
面白いもので、決めなかったことで、かえって落ち着きました。「いつか考えなきゃ」と頭の隅で燻っていた問いが、「材料は揃えてある。生活が変わったら、また紙を見ればいい」に変わったからだと思います。数年おきに見直せばいい話を、毎晩抱えている必要はなかったのです。
まとめ——まず「年間いくら」を一枚の紙に
長くなりましたが、この記事でやったことは、突き詰めればひとつだけです。
バラバラに払っている車の費用を、一枚の紙に集めて、年間総額を出した。
手放すのか、乗り換えるのか、保険をどうするのか。それは全部、その後の話です。今日やるのは確認だけ。紙とペンと、引き出しの中の書類があれば、今夜30分でできます。
- 自動車税
- 自賠責保険
- 車検・点検(2年分なら2で割る)
- 任意保険
- ガソリン代(3か月平均×12)
- 駐車場代
- その他(概算でOK)
この7つを書き出して、合計して、12で割る。「うちの車は月いくらの固定費か」という一行が手に入ったら、この記事の目的は達成です。
車関連費の棚卸しが済んだら、次はそれを毎月の家計の流れの中で眺める番です。僕が続けている毎月の確認習慣については、こちらの記事にまとめています【内部リンク:貯蓄習慣】。また、年間費用をまとめて書き出す家計の見える化については、シリーズの原点であるこちらもどうぞ【内部リンク:記事002】。
あの土曜日、車検の見積書の前で固まっていた僕に教えてあげたいのは、こういうことです。
驚くべきは13万円という数字ではなく、その数字の「置き場所」が家計のどこにもなかったこと。置き場所さえ作ってしまえば、車は謎の出費ではなく、付き合い方を選べるただの固定費になる——。
一枚の紙が、それを教えてくれました。
※本記事は個人の記録です。保険や契約内容の変更、車の売却などは、ご自身の状況に合わせてご検討ください。



コメント